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暮れのオラトリオ
葉介

  2−後編

 やはり彼女もまた、アキラと同じ、「空から降ってきた人」に間違いなかった。
「それじゃ、私と同じような人が、毎年決まって一人出てくるってことですか」
 唖然とするエルレーン。
「アキラさんも、その時、記憶をなくしていたんですか」
「今だって何も思い出してはいませんよ。ここの生活に馴染む努力はしましたけど」
 彼女の言うことに、嘘はないように思える。しかし、疑問はまだある。ウォルダート達は昨日、死体を確認したようなことを言っていなかったか。いや正確には、その痕跡か。行方不明ではなく、死亡と報告したのだから、それだけの確信を得られる状況だったのだろう。
「馴染むって言われても、私、一文無しみたいだし」
「本来は、すぐに役人がやってきて、そういう人間を保護するはずなんですけどね」
 ウォルダートらが今回の件を死亡と判断した原因を、推理してみる。
 例えば、暗殺者が、無関係の人間を標的と誤って殺していた場合。
 あるいは、暗殺者が返り討ちにあっていた場合。
 そんな可能性があるだろうか。
「貴女が最初に目覚めたとき、そこで何があったんです?」
「それは」
 また沈黙。
 だが、今までとは様子が違うように見えた。しばらくして考えがまとまったのか、アキラの方に向き直る。
 そして何事か言いかけたとき、頭上に響きわたる轟音が、彼女の声をかき消した。
 見上げた空を、翼を広げた黒い影が次々に横切っていく。
 今度こそ二人共声を失った。
 アキラも飛行機という概念こそ知っていたが、それが実際に作られているとは想像もしていなかったのだ。
 三つの機影が、オアシスの上空を目指して駆け登る。
「工房が、あんな物まで作るなんて」
 本気で皇家の船を襲撃するつもりなのか。
 アキラはハンドルを握る手に力を込めると、アクセルを床まで踏みつけた。
「あの、工房って、さっき言ってたやつですか?」
「ええ。しっかり捕まって、口閉じててください! あれを追います」
 発動機が一際大きな咆吼を上げ、弾けるような加速で飛び出した。


「さて、我々も祭りを楽しむとしよう」
 マントの留め具を外して侍従の手に渡すと、ミツラギは側近を引き連れて船底部分の昇降口へ向かおうとした。そこへ、部下の兵士が一人駆け込んでくる。
「殿下」
「よい、直に申せ」
 跪いた兵士の前に立つ。
「は。正体不明の飛行物体が三つ、こちらに向かっております。予定を切り上げて塔にお帰りになられるよう、クスミ様が申されております」
「飛行物体だと?」
 ミツラギは少し考える素振りを見せた後、家族達の方へ振り返った。
「そういうことらしい。すまんが今回はこれで引き上げだ」
 そこには、この後に予定されていた拝謁の儀に出席するため、皇太子の親族らも集まっていたが、報告を聞いた彼らの反応は様々だった。残念そうに顔をしかめる者、あるいはほっとする者。
 その集団の中から一人の少女が抜け出して、ミツラギに飛びついた。
「父上! 町に出れないんですか?」
「おお、イラカよ。お前は特に楽しみにしていたのだったな。残念だがその通りだ。次の機会まで辛抱してくれんか」
「私だけ、下に降りて待ってたらだめですか? あ、後でクスミに送ってもらいます。それなら──」
 皇太子が、幼い娘に言い立てられて困っていると、イラカの後に付いて来ていた青年が、イラカの肩に手を置いて制止した。
「姫」
 目で訴えかけられ、彼女は渋々といった様子で父親から身を離した。そして母親の元へ戻るのを見送ると、青年は皇太子に向き直る。
「トラブルですか?」
「うむ。正体不明といっているが、恐らく工房の者共だ。出てきてしまった以上、解呪できない実体兵器相手では、クスミ一人では対処は無理だろう。ベイアード、家族達の安全はお前に任せる」
 イラカの家庭教師であるベイアードは、皇太子の言葉に頭を振った。
「いえ。姫様方も、父君が付いておられた方がご安心になられるでしょう。船の守りは私が」
「わかった。では甲板を頼む。船長! 緊急発進。一度砂丘地帯に退避せよ」
 ミツラギが命令を下すと、船内がにわかに慌ただしく動き始めた。ベイアードは船首に鋭い視線を向けると、甲板に向かった歩き出す。わずかに空気を震わす音が、聞こえ始めていた。


 現れた。
 塔の向こうから来る、上空に黒い点が三つ。
 避難勧告は出されている。だが、人々の混乱は治まりきっていない。既に人気の途絶えた中央広場に立ち、シャーン=バラタイがメインマストを広げ始めるのを確認すると、クスミは白光を帯びる小刀を頭上に掲げた。
「翼持つ尖兵よ。主に仇なす者共を討て」
 近くの建物の屋根から、同じく三つの影が飛び出す。人に倍するほどの大きさを持つ白鷲。二、三度大きく羽ばたくと、気流に乗って上昇していく。
 その間に、黒い点はその形がわかるほどに近づいていた。機械とはいえ、鳥のように大きな翼を備えている。
 白鷲が近づくのに気付いたのか、三機の飛行機から光が瞬く。発砲しているのだ。だが、三匹は真っ直ぐに突っ込んでいく。多少の打撃で落ちることはない。
 あと少しで接触すると思ったその時、広場を横切るように飛んでいた飛行機が、軌道を変えた。機種を下げ、白鷲を回り込むように降下をかける。そしてスピードを得た飛行機は、そのまま鳥達を振り切ってこちらに突っ込んできた。
 クスミの頭上に影が落ちる。船が陸を離れ始めたところだった。
 彼女は唇を噛み締めた。工房の火力に耐えうるよう、召喚するものを選んだつもりが、機動力で後れをとるとは。これでは一撃は確実に受けてしまう。
 白鷲を背後に従えながら急降下する飛行機から、小さな固まりが幾つか放たれる。それは、広場めがけて真っ直ぐに落下していった。


 いくつもの破裂音が響き渡り、中央広場の方から黒煙が立ち上った。だがその中から姿を見せた座乗船は、傷一つ負っていないように見える。飛行機は爆弾を投下した後、再び旋回に入っている。その後を追う巨鳥は、飛行機の速度に追い付けないようだった。
 もう一度爆撃が繰り返されるのは間違いない。だが船はようやく広場の外縁に差しかかったところだった。タイミングが悪ければ、民家の真上で食らうことになる。
「さすがの自動車でも、空を飛ぶものには付いていけませんね」
 アキラはそう言いながら顎の下の汗を拭った。船は塔とは反対方向、つまり彼らから遠ざかるように動いており、おまけにそこまでの道は大回りだ。次の爆撃にはとうてい間に合わない。
 だが、間に合ってどうする? 自分には魔法使いのような力はない。被害を食い止めることなどできないのに。
 この時アキラは、自動車が本来あり得ないほどの速度で走っていることに気付いていない。この発動機の馬力では、馬車よりも速くは走れないはずなのだ。
 この、彼の持つ不可思議な力は、本人も意識しないうちに顕れていることが多い。自覚して使うこともできる。だがそれは、重い物を持ち上げたりする他には、手品くらいにしか役に立たない程度の物だった。
「だったら、こっちも上を飛んでいきましょう」
 驚いて、隣を振り返る。エルレーンが言葉と共に取り出して見せたのは、一枚のカードだった。読解不可能な幾何学模様が、青い地の表面にびっしりと刻まれている。
「それは?」
 アキラの問いに答える間もなく、彼女の手から離れたカードが眩い光を放つ。
「無機なるものよ。力以て、翼持て、舞い上がれ」
 呪文のように唱える。差し出された杖の先端が、カードの輝きに呼応するように明滅する。
 アキラは、地面から伝わる振動が消えるのを感じた。浮いている。エルレーンは、魔法を使ったのだ。さらに、車体側面から金属の翼がせり出すと、自動車は彼らを乗せたまま勢いよく飛び上がった。
「これは、どうやって動かすんですか!」
「普通に運転するのと同じようにやってください。アキラさんの思うとおりに動くはずです。多分」
 エルレーンの怪しげな助言に従い、ハンドルを押さえつけ、アクセルを踏み込む。すると、家々の屋根の上を滑るように飛び始めた。確かに、直感のままに操作できるようだ。アキラはハンドルを切ると、船に進路を向けた。
「エルレーン」
 顔にかかる黒髪を押さえながら、エルレーンが振り向く。アキラは、少しの間逡巡する様子を見せたが、やがて言葉を続けた。
「工房の飛行機は、もう一度戻ってきて爆弾を落とすはずです。船は大丈夫でしょうが、幾つかは狙いが外れて下に落ちるでしょう。町が燃えたら、大変な被害になります。貴女の魔法で、食い止められませんか?」
 彼の顔に浮かぶ苦渋の色は、結局は他人の力を当てにしなければならないことへの怒りによるものだった。しかしエルレーンは、それを慰めるように、自信に満ちた笑顔で答えた。
「爆発するのを防げばいいんですね? 大丈夫、やってみます」


 船首付近に、奇妙な物が突き刺さっている。
 ベイアードは訝しげな目つきで、青白い卵のようなそれを凝視した。
 爆弾は、彼の術によって全て消滅したはずだ。だがその物体は、魔法の壁を素通りして船上に落ちてきた。
 工房の新兵器なのか。疑問が残るが、早く取り除くに越したことはない。
 改めてホルダーからカードを引き抜くと、鍔の部分に宝玉のはめ込まれた剣を構えた。切っ先を向けられたカードが、赤く輝く。
 その光に呼応するように、卵に幾筋ものひびが入り、パクリと割れた。
 そこに身を屈めていたものが、ゆっくりと体を伸ばしていく。
 殻を踏み砕いて立ち上がったのは、古風な甲冑を全身にまとった人間だった。いや、その表情からは何の意志も読みとれず、目は異常なぎらつきを見せている。普通の人間ではなかった。
「クリーチャーだと!?」
 ベイアードは、驚愕の声を漏らした。それは術士の言葉で、術によって呼び出された生物をこと指す。
 それは工房が、魔法の力を持つ何者かと結託したことを意味する。
「それでこの襲撃か。短慮な!」
 素早く空を見渡し、飛行機の位置を確認する。それらは、クスミの喚んだ白鷲に追われつつも、高度を回復しているところだった。
 次の術を行うための時間はある。彼はそう読んで、自らの体内に取り込んだ力のありったけを、剣の先端に注ぎ込んだ。赤い光が急激に膨れ上がり、巨大な火球と化す。
「煉獄の扉よ。開きて、我が刃に炎を宿せ。宿りて異形なる魂を焼き清めよ」
 魔法の鎧武者に向けて、剣を突き出す。そして炎が、その巨躯を包み込むはずだった。
 だが異変が起きる。炎は弾けて消え、不発に終わったカードが、ふらふらと彼の手に舞い戻る。
「馬鹿な、私の術が……。これは一体」
 悠然と歩み寄る鎧武者が、戸惑うベイアードに向け、その手の大剣を振り上げた。


 緩やかな弧を描きつつ上昇の頂点に達し、エイオルヴの飛行機は再び爆撃の姿勢に入った。
 最初に投下したとっておきは、うまく座乗船に落ちたようだ。爆弾は全くダメージを与えられなかったが、これも予想通り。あの秘密兵器を着弾させるための囮に過ぎない。
 船上では、確かに混乱が起きているようだ。これで、次に投下する爆弾が威力を発揮する可能性が、ぐんと高くなる。
 しかし、こちらもそろそろ背後の敵を何とかする必要があった。上昇起動で速度を失っていたところに巨鳥の群が追い付き、後続が翼に穴を空けられたのだ。
 傷を負った僚機は、高い高度から強引に残りの爆弾を放り投げると、砂丘地帯の方へと緩やかに落ちていった。
 それでいい。その方角には、襲撃部隊がしばらく潜伏するのに必要な物資が、あらかじめ集積され、巧妙に隠されている。機体を破棄してそこまでたどり着ければ、逃げ延びられるはずだ。昨日、彼がバイクで出かけていたのはその準備のためであった。
 再びシャーン=バラタイに狙いを定め、ダイブする。
 当初、作戦は四機で行う予定だったのが、案の定の故障により一機当たりの爆弾の割り当てが増えていた。その重量増加による影響が心配されたが、杞憂だったようだ。降下に入れば、魔法のモンスターといえど追い付けない。
 それから、出所は知らされていないが、あの奇妙な新兵器も説明された通りの効果を発揮している。
 この戦、もらった。
 船の真上に、突如として霧の傘が広がったのは、そう叫んだ直後だった。


 ろくな体制を取らないまま投げ出された爆弾を、アキラの目が捉えていた。
「今度のは広い範囲に来そうです。エルレーン、いけますか?」
「船の真上に、車を止めてください!」
 エルレーンは既に新たな術を用意している。
 アキラはクスミ達に敵と見誤られないことを祈りながら、屋根伝いの低空飛行から、座乗船の上へと車を飛び上がらせた。
 頭上を見上げる。
 相手は下の状況をまるで無視して、運を頼りにばら撒いたらしい。彼は改めて憤りを感じていた。これが工房の正体か。
 空中に制止した車の席から立ち上がり、エルレーンが術の展開を開始する。
「森に降りる朝露よ。我が身を包む霧となれ。戦人を惑わす霧となれ。全てを隠す霧となれ」
 彼女の頭上に浮かんだカードが、緑の滴となって弾ける。
 その空間に、波紋が生まれた。それは瞬く間に広がり、周囲の光景を歪ませ、やがて目に入るもの全てが霞に覆われる。
 と、あちこちで、祭りの花火のような破裂音が漏れ聞こえてきた。霧の中に埋もれた爆弾の断末魔だった。
「……なんとか、なりましたか?」
 音が止み、エルレーンがほっと息をつく。
「まだです! 気を抜かないで」
「えっ」
 風を切る音が再び起こる。そして彼女が見上げると同時に、直上に閃光が走った。
 先程とは比べものにならない轟音が彼らを襲う。それは、降下してきた工房の二機による爆撃だった。残り全ての爆弾を、船に向けて集中投下したのだ。
 騎馬隊の一斉突撃のような轟きが、だんだん大きくなってきている。エルレーンの方を振り返ると、頭上に差し出した杖を両手で支え、苦しげに目を閉じていた。
「エルレーン?」
「……ちょっと、考えが甘かったみたいです」
 呻くように言う。頭上の霧は、今や炎の色に染まっていた。爆撃が、魔法の護りを撃ち破りつつあるのだ。
「すいません、もう、保たない」
 術の反動が起こっているのか、それとも熱によるのか、エルレーンの額には玉のような汗が吹き出している。アキラはとっさに、彼女の杖を握る手に自分の掌を重ね合わせた。
 一瞬、電気のような痺れが走る。だが構わず握りしめた。
「頑張ってください。私も手伝います」
 そう言って、目を閉じる。
 エルレーンの体に流れる魔法の力が、触れた手から伝わってくる。アキラはそのイメージに従い、自分の力を重ね、そこに合流させた。
「アキラさん──ッ!?」
 突然、エルレーンは顔をしかめると、その場にうずくまった。許容し難い量の力が、アキラの手を通じて流れ込んできたのだ。いや、流れ込むなどという生易しいものではない。高圧ポンプで強制的に送り込まれてくるような感じだった。
 耳の奥で、早鐘のように鼓動が脈打っている。全身の血管が破裂するかのような錯覚に耐えながら、辛うじて彼女は踏みとどまっていた。
「止めて、これ以上、死んじゃう──」
「落ち着いて。自分の身体で受け止めようとしないで。流れを束ねて、そのまま放出すればいい。魔法使いの貴女の方が、魔力の扱いには長けているはずです」
 アキラの顔を覗き込む。片目を隠すように垂れていた前髪が、爆風で吹き上げられていた。その左の瞳が、虹彩の色が、明るい紫色を帯びている。
「その目は」
「集中してください」
 エルレーンは我に返ると、再び目を閉じた。力の流れを意識し、その奔流を受け流す形を想像する。意識的に作っていた呼吸のリズムが整い始めると、耳鳴りは徐々に遠のいていった。
 術をさらに制御すべく、頭の中にイメージを思い描く。破壊の力を包み込む、掌のイメージ。
 一度具現化した魔法をコントロールするためには、術の発動のとき以上の魔力がなくてはならない。今ならば、それが可能だ。
 顔を上げ、頭上の赤い炎、今だ留まり続けている巨大な熱の塊と向き合う。
 びりびりと全身を打ち震わす力を、杖へと振り向ける。
 見えない波に押されるように、二重、三重と、霧の層が波紋を浮き立たせた。そしてそれは渦を巻くように中心へと向かう。より糸のように炎に絡み付きながら、やがて文字通り霧散した。
 薄く、視界が戻り始める。気が付くと、爆音は止んでいた。プロペラの音もしない。
 工房の飛行機は、やることをやってさっさと引き上げたようだった。獲物を失った白鷲が、上空を旋回している。彼らは、クスミの敷いたレイヤーより外には出られないのだ。
 アキラはいつの間にか離れていた手で、エルレーンの肩を叩いた。
「ご苦労様」
 彼女はシートにへたり込むと、荒い呼吸を繰り返す。
 全ての力を使い果たしたかのように、ぐったりとしていた。
 しかし。
「もう少しだけ、付き合ってください」
 アキラは、真下の甲板を見下ろしながら、絶望的な言葉を告げた。
 エルレーンが訴えるような目で見ているのを受け流し、アクセルを踏む。
「まだ、何かあるんですか」
「もう少しだけ、この車が飛ぶのを維持していてください。あとは、私がやります」
 少しだけ安心したような表情で、彼女はアキラの視線を追った。
 シャーン=バラタイの甲板上。そこでは、一目で敵とわかる異形の剣士が、群がる兵士を薙ぎ倒している。兵士達は、船室の扉に立ちふさがる一人の男から、敵を引き離そうとするように動いていた。
「あれを船から追い出します」
「どうやって」
「こうするんです」
 ふっ、と体が軽くなる。車が船目がけて落下したのだ。
 軽いショックとともに、甲板に着地する。その前方では、四、五人の兵士が一斉に、鎧武者と切り結んでいた。二人に対して警戒するほど、余裕のある者はいない。
「そこから離れて!」
 アキラが声を上げる。だがその必要もなく、彼らはクリーチャーの腕の一振りで吹き飛ばされた。
 おあつらえ向きのタイミングだ。アキラは一言、エルレーンに降りるように命じると、アクセルを潰れんばかりに踏み込んだ。
 車輪が空転し、摩擦が甲板を焦がす。暴走を始めた車からアキラも続いて飛び降りた。
 自動車が一直線に突進していく。それを受けとめようと両手を広げた鎧武者に正面衝突すると、そのまま道連れにし、舷側の柵を破って宙に舞った。
 未だ魔法の残っていた車は、クリーチャーを引っかけたまま町の上を飛び越し、何もない砂漠に猛然と突っ込んでいく。
 そして墜落。直後、爆散。
 あっという間の出来事だった。甲板にいる者達は、呆然と自動車の燃える残骸を見つめることしかできない。
 そんな中、ただアキラだけが、全く別のことを考えていた。
「あれの損失補償、ちゃんと国から出るよなあ……」
 車が木っ端微塵に吹っ飛ぶことまでは、予想していなかったのである。
 この場においては本当にどうでもいい問題だったが、本人は顔面蒼白で、真剣に後悔しているのだった。


続く


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