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い翼の天使達
KIMI

 乳白色の濃霧が夜の町を包み込んでいた。暗い路地に並ぶ数少ない街灯の明かりがそれに反射して白く浮かび上がって見える。
 その時刻、町は死んだように静まり返っていた。
 建ち並ぶ家々の窓からはひとつとして明かりの漏れているものはなく、真っすぐに伸びる路上には人の姿はおろか、通りかかる車の姿もない。
 まるで、ゴーストタウンのように……。
 だが、その静けさの中アスファルトを叩く乾いた音が微かに響く。
 それは路地に沿ってドップラー効果をともないつつ次第に近付いてくる。街灯の灯りの下をその足音が通り抜けた時、一瞬ではあるがその足音の主である人物の顔が灯を浴びて闇のなかに浮かび上がった。
 若い女性だ。いや、まだ少女と言った方がいいだろう。
 その顔は不安気に歪み瞳はなにかに怯えたように揺らぎながら後方に、自分自身の通ってきた背後の路上にしきりに向けられている。その少女の足音は街灯の下にあった水溜まりを蹴り付けると、また遠ざかっていった。
 そしてその少し後、一拍の間を置いて、まだ波紋の浮かんでいる水溜まりの上を音もなく黒い影が、ただ影のみが女の後を追う様にして通りすぎていった。
 少女は恐怖に戦いた様子で何度も背後を振り返りつつ、必死に走り続けた。
 彼女は何者かに追われているのは間違いない。だが一体何に追われているのだろう。彼女を追って迫ってきているはずの追跡者の姿は一行に現われない。いや、確かに何者かがそこにいる。あの黒い影をそれこそがあの音無き影の主こそが追跡者であるに違いないのだ。
 やがて髪を振り乱し走り続けた少女の視界がふと開けた。
 町外れにある公園の敷地の中に少女はいた。
 少女の目が周囲を見渡すそしてそれはそこにある一転に止まった。
 少女の顔に一瞬、希望の色が浮かぶ。
 夜の公園の隅にぽつんと浮かび上がる様にして電話ボックスの灯が見える。
 少女はその電話ボックスに駆け寄ると扉を開け中に入った。
 慌ただしく受話器を取りカードを差し込むと指を数字の打たれたボタンの上に乗せる。が、それを押そうとしたとき、指がぴたりと止まった。
 少女の背に黒い影がさしかかっていた。
 少女は恐る恐る背後を振り返った。
 そして……。


〜仮面邪教団〜

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